化学修飾XPSによるOH基、COOH基の定量
概要
プラスチックなどの高分子材料において、表面官能基は接着、濡れ性、親水・疎水化などに関わるため、官能基量を把握することは非常に重要です。
XPS(X線光電子分光法)は最表面分析に加えて結合エネルギーを観測することから、
分子構造・表面官能基などの結合状態解析に有効な手法です。
しかし結合によっては、目的官能基と他の結合が重なる為、目的官能基のみを把握することが困難です。
例えば右図に示すようにLCP表面のC-OH基量(青丸)を確認したいとします。
しかしC-OH基(青丸)とLCP分子構造内のC-O結合(赤丸)が重なるため区別ができないです。
この場合は目的官能基のみに反応する特定の化合物を修飾させることで、
XPSにて区別できるようになります。
更に修飾はF系の化合物を用いることで、より感度の高い測定が可能です。
装置仕様
・装置名:アルバック・ファイ製 PHI5000 VersaProbe Ⅲ
・X線源:単色化AlKα
・X線ビーム径:φ10~200µm
・スパッタイオン銃:アルゴンイオン
分析項目
・表面の組成分析(定性・定量)・・・ワイドスキャン、ナロースキャン
・化学シフトによる結合状態評価・・・波形分離
分析用途
・表面改質による高分子の官能基評価(OH基、COOH基、他の官能基については別途ご相談ください。)
測定例
PVA(ポリビニルアルコール)を用いたOH基の定量
OH基量が既知のPVAをモデルとして実施しました。
修飾後はC-OH基のみにF系化合物が修飾されます。
実際の測定結果を下記に示します。
修飾後はF系化合物由来のピークであるCF3・COOが増加したことより、化学修飾されていることがわかります。
定量値のF量より、およそ9割の修飾率であることがわかりました。
※一般的な修飾率は7-9割です。2)
修飾率を考慮し計算した結果、OH基量は理論値に近い46.6%と算出されました。
参考文献
1)植野富和, 岩野宗貴, 山尾みき, 梅原輝彦 : JSRテクニカルレビュー, No.119, 14-18 (2012).
2)小川俊夫 : プラスチックの表面処理と接着, 共立出版株式会社, 2016
PAA(ポリアクリル酸)を用いたCOOH基の定量
COOH基量が既知のPAAをモデルとして実施しました。
修飾後はCOOH基のみにF系化合物が修飾されます。
実際の測定結果を下記に示します。
修飾後はF系化合物由来のピークであるCF3・COCが増加したことより、化学修飾されていることがわかります。
定量値のF量より、およそ8.5割の修飾率であることがわかりました。
※2 一般的な修飾率は7-9割です。2)
修飾率を考慮し計算した結果、COOH基量は理論値に近い37.4%と算出されました。
参考文献
1)植野富和, 岩野宗貴, 山尾みき, 梅原輝彦 : JSRテクニカルレビュー, No.119, 14-18 (2012).
2)小川俊夫 : プラスチックの表面処理と接着, 共立出版株式会社, 2016