半導体チップ温度Tj測定法の種類と特長
概要
パワーサイクル試験は、デバイスへの通電電流による発熱によりTj(半導体チップ温度)が一定の温度変化を繰り返した際の熱ストレスに対し、その耐久性を確認する試験です。
パワーサイクル試験では半導体に通電することで加熱します。
試験では、半導体チップの温度(Tj)を測定する必要があります。Tjの測定は、PN接合に電流を流したときの電圧が温度によって変化する特性を利用します。
Tjを測定する具体的方法にはいくつか有りますが、試験対象となるデバイスや試験条件によってメリット、デメリットがあり、試験を実施するにあたりどの方法で測定するのかを選択することが重要な要素となります。
ここでは代表的なTj測定方式の種類とその特長について説明します。
Tj(チップ温度)測定法の種類
*1 測定方法の名称は、便宜上命名しています。通常はVf法1、またはVf法2を採用しますが、デバイスの構造上、他の方式を選択する場合もあります。
*2 通電オフ後に測定する場合は、測定遅れによるTj低下が発生することがあります。(補正可能)
*3 内蔵ダイオードは還流ダイオード、FWDと呼ばれることがあります。ボディダイオードは寄生ダイオードとも呼ばれることがあります。
*4 測温ダイオード、温度センスダイオードと呼ばれることがあります。
*5 通常はVf法1で行います。
温度特性と温度係数について
1.温度特性
Tjの測定は、測定対象の電圧温度依存性を利用してTjを測定しているため、測定対象へ測温電流を流したときに得られる電圧とTjの相関(温度特性)を予め測定しておく必要があります。
各測定法の補足で説明していますが、殆どの場合、温度特性は直線近似ができます。
2.温度係数
測定対象の温度依存性は、デバイスへの未通電時にデバイス外部から強制的に一定の温度を加え、その温度を変化させたときの測定電圧の変化と温度の関係を次式によって表し、一次関数として近似します。
(温度相関式) V=a×Tj+b V:測定電圧、Tj:温度
ここで、係数aは傾きで感度、係数bは0℃における電圧を表しています。
算出した係数a、係数bを用いて測定した電圧からTj値に変換することが可能となります。
(温度変換式) Tj=(V−b)÷a V:測定電圧、Tj:温度
3.温度特性の測定
温度特性の測定は、図2のように恒温装置でデバイスの温度を外部から強制的に一定の温度にした状態で、測温電流値における電圧を測定します。
ジャンクションが温度になじむよう十分な時間をかけます。
恒温装置の温度(Tj)を可変させて電圧(Vf)の変化を測定することで、温度相関式の係数a、係数bを導き出します。
Tj測定遅延補正について
1.Tj測定遅延補正とは
通電OFF期間に測温用電流を通電させて、測温箇所の電圧測定を行う方式では、通電OFF直後からTjが安定して測定できるようになるまでに遅延時間が必要です。
遅延時間は、デバイスのスイッチング特性と測定系のバランスによって変わるため、デバイスの通電波形をオシロスコープで観測し、最適な測定ポイント(遅延時間)を設定します。
通電中のTjは通電OFF直前が最も高く、この遅延時間によりTjが低下するため、通電OFF直後からTj測定までの遅延時間分のTj低下を事前に見込んでおく必要があります。
ここでは、このTj測定における遅延補正について説明します。
2.遅延時間とTjの関係
図3は遅延時間とTj低下の関係を市販のモジュール品で確認した結果です。
発熱体とパッケージの形状、冷却方法などによって、Tj低下のカーブが変わります。このカーブは、一般的に遅延時間(td)の平方根(ルートtd)とTjとの間に相関があります。
また、この関係は遅延時間の初期段階でほぼ直線近似出来ることが知られています。この性質を利用して、遅延時間後のTjから通電OFF直前のTjを予測することが可能となります。
3.Tjの推定と遅延補正
図3では、遅延時間がルート300(μs)=0.017(ルートs)の時、通電OFF直前からの温度差が約12(℃)であることを示しています。
このことから、通電OFF直後からの遅延時間が300μsの場合、Tj目標値が150℃の場合は、12℃差し引いた138℃の測定値を目標とすることでTj=150℃での試験を行うことができます。
[参照資料]
JEDEC Standard No. 51-14
4.1 Measurement of a transient cooling curve (Thermal Impedance ZθJC) (cont’d)