はんだ接合部の高温化が招くクラックについて、その進展メカニズムをご紹介します。
背景
はんだ付け部の信頼性で、クラックは最大の問題になります。近年、パワーモジュールをはじめとする電子機器で、接合部の高温化が進んでおりΔtの増大によるクラックの促進は大きな懸念事項になっています。
クラックの種類
はんだクラックにはいくつかの種類があります。
①初期クラック:部品めっき不良、反りによる剥離、BGAボール落ち等
②落下等衝撃によるクラック
③疲労破壊によるクラック
・高温で一定の応力が負荷されるクリープ破壊
・繰り返しの加熱冷却で発生する熱疲労破壊
母材/はんだ界面
はんだ中
母材/はんだ界面:①,②
はんだ中:主に③
疲労破壊によるクラック
繰り返しの加熱冷却で発生する熱疲労破壊が、はんだクラックの大半を占めますので、この熱疲労破壊について記します。
1.クラック対策
①熱膨張率が近い材料をはんだ接合する。
基板を固い材質に変更する等。
②温度変化を緩和する。
冷却ファン、水冷等。
③温度変化があってもはんだ接合部にストレスがかかり難くする。
アンダーフィル使用、ダミーパッド等。
④応力集中の分散、低減。
実装位置の変更、設計変更等。
⑤はんだ付け部にストレスが加わってもクラックが入り難くする。
耐クラック性に優れるはんだ材料等。
クラック対策としては上記5項のどれかを試みていますが、どれも完全に達成することは困難です。したがってクラックを完全に無くすことはできないことが前提となるため、コストを含む製品固有の保証基準を適切に設け、それを満足するための試験および判断基準を設定することが最重要課題となります。
2.クラック進展メカニズム
疲労破壊初期では応力集中部に結晶方位差が発生し、その後、動的再結晶により方位差が拡大することで、クラックの発生、進展に繋がります。弊社でも結晶方位に着目し、EBSDによる冷熱サイクル試験時のクラック解析を実施しました。
3.クラックばらつき
「Pbフリーはんだでは、クラック進行のバラツキが大きい」と聞きます。
近年、この原因が明らかになってきました。基本的にはβ-Snの結晶異方性に起因すると考えられ、「特定の方位が出現した場合」、「粒界がクラック進行方向に形成された場合」にその進行は加速されます。
下図に結晶粒界がフィレット中腹に形成された場合の模式図を示します。電極下から多結晶化が進み疲労破壊が進行したクラックは、粒界端のA点に到達すると粒界すべりにより短時間で完全破断に至ります。
弊社でもこのような事例を見ることが増えてきました。EBSDによる断面観察も増加しており「β-Snの方位がクラックの検証に必要と考えるメーカが増えているのであろう」と考えています。
結言
はんだ接合部のクラック進展による熱抵抗の上昇や断線は最大の問題であり、まだまだその原因や対策について確立されているとはいえません。弊社でも引き続き、断面研磨,EBSD観察を主に原因や対策を考えていくとともに、皆様のご要望、問い合わせ、試験受託に対応していく所存です。