分析・故障解析
Analysis
分析・故障解析

PY(パイロライザー)による熱抽出・熱分解GC/MS

概要

GC/MSを用いた樹脂等の成分分析の手法としてPY-GC/MSを用いた熱抽出GC/MS及び熱分解GC/MSが有効です。
比較的低温で加熱を行う熱抽出GC/MSと高温で加熱を行う熱分解GC/MSを組み合わせることで揮発しやすい添加剤及び母材の成分を同時に分析することができます。

装置仕様

・装置名:フロンティア・ラボ  Multi-Shot Pyrolyzer EGA/PY-3030 D
・試料導入方式:重力落下プッシュボタン式・手動上下移動
・熱分解管材質:石英製
・温度制御範囲/安定性:室温プラス10~1050℃(1℃毎)/±0.1℃以内

分析項目

・高分子化合物中の未反応物など熱脱着成分
・各種高分子成分
・樹脂中の添加剤成分
・難揮発性成分
注:本手法は定量分析には適しません。

測定装置

・装置名:島津製作所製 QP2010 Ultra
・常用使用カラム:ジーエルサイエンス製 Inert Cap 5MS/Sil ProGuard 2M

測定原理・サンプル採取

加熱炉(室温~1,000℃前後まで)で固体や液体試料を加熱し、発生した気体成分を分析します。
樹脂の添加剤など、微量成分の違いなどを確認する際に使用します。
樹脂材料は100~300℃前後で熱脱着反応、500~600℃前後で熱分解反応が発生します。両方を測定可能です。
 
分析に際してはサンプルの採取が必要です。(微量で測定可能)
採取したサンプルを専用のサンプルカップに入れて装置に導入します。

測定例

その1 ポリカーボネート製品の分析

典型的な樹脂成分の同定をご紹介いたします。
実践例としてポリカーボネート製品を一部採取し、測定しました。

まずは熱抽出GC/MS(サンプルを300℃で加熱)の結果です。
酸化防止剤として使用されるりん酸トリス(1-メチル-2-クロロエチル)や可塑剤(樹脂を軟らかくするために添加する物質)としてよく用いられるフタル酸系の成分が検出されました。
パルミチン酸、オレアニトリル、オレアミドは滑剤(滑り性を良くするために添加する物質)として用いられます。
スクアレンは帯電防止、もしくは酸化防止の目的で添加されたのではないかと推定します。

次に熱分解GC/MS(サンプルを600℃で加熱)の結果です。
ポリカーボネートを熱分解した際に発生するフェノール系の物質(ベンゼン環に-OH基が結合したもの)が検出されました。
特にビスフェノールAが突出しており、これはポリカーボネートを熱分解した際に特徴的に表れるスペクトルです。
典型的なポリカーボネートのクロマトグラムを得ることができました。

その2 2種のPVC製品の比較

PVCは上下水管のパイプや日用品等に幅広く使用されている素材です。
硬度も用途に応じて様々で、この硬度は可塑剤(樹脂を柔らかくするために添加する物質)の量や種類で決まります。
硬いPVC製品のパイプ継手と柔らかいPVC製品のホースをそれぞれ分析し、違いが見られるか調査しました。

硬いPVC製品であるパイプ継手の結果から検討します。
300℃では難燃剤、可塑剤、滑剤に用いられる物質が検出されました。
1-クロロヘキサデカンは界面活性剤の合成剤に用いられる物質ですが、今回はPVC製品から検出されており、詳細は不明です。

600℃ではPVCを熱により分解した際に発生するベンゼン環を持つ物質が多数検出されました。
典型的なPVC熱分解のTICスペクトルが得ることができました。

続いてホースの結果です。
300℃では難燃剤、滑剤の他、可塑剤としてよく使用されるフタル酸類が多く検出されました。
パイプ継手と比較すると可塑剤の量が圧倒的に多く、硬さの違いを考慮すると辻褄が合います。

600℃のTICスペクトルはパイプ継手と比較すると検出強度がかなり弱いですが、PVC熱分解時に発生するベンゼン環構造を持つ物質がいくつか見られました。

検出強度に差が出た要因としては、可塑剤が多く含まれているおり、樹脂に含まれるPVC成分の割合がパイプと比べて少ないためと考えられます。
 
同じ素材でも検出成分の違いから性質の違いを推定することも可能です。